名古屋地方裁判所 平成元年(わ)467号 決定 1990年6月15日
主文
本件公訴を棄却する。
理由
一 本件公訴事実は、
「被告人は、昭和六四年一月五日午後八時三五分ころ、業務として原動機付自転車を運転し、名古屋市中村区<住所略>先の信号機により交通整理が行われている交差点を、赤色の灯火信号を無視して栄生ガード方面から大閤通方面に向かい時速約三五キロメートルで進行中、同交差点の出口に設けられた横断歩道を信号に従って右方から左方に向け歩行横断中の甲野一郎(当五五年)を右前方約二九メートルの地点に認めたのであるから、前記横断歩道の直前で一時停止又は徐行してその通過を待ち、安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同人の直前を通り抜けられるものと即断し、その安全を確認しないまま同人に約八メートルに迫るまで前記速度で進行した過失により、折から前記横断歩道を歩行横断中の前記甲野に自車前輪等を衝突させて路上に転倒させ、よって同人に全治約一か月間を要する頭蓋骨骨折等の傷害を負わせたものである。」というものである。
二 一件記録によれば、平成元年三月二二日、被告人に対し本件公訴事実につき公訴の提起がなされたので、当裁判所は、同年三月二三日、本件起訴状の謄本を起訴状記載の被告人の住居(被告人の肩書住居地と同じ)に送達したところ、乙川二郎が、被告人に代り、被告人本人として、右書類を受け取ったが、同年三月初めころから被告人が二郎のところを出て所在が不明であったため、その後右書類を廃棄したこと(なお、二郎はそのことを裁判所に連絡しなかった)、その後被告人に対する召喚状の送達が三回なされたが、いずれも被告人が受け取らず保管期間満了ということで裁判所に還付されてきたところ、平成二年二月に入り、被告人が愛知県<住所略>所在の○○レジデンス1-C号に居住していることが判明したため、同所に召喚状を送達し、公判を開いたところ、被告人から本件起訴状謄本の送達を受けていない旨の申出がなされ、調査の結果前記事実が判明したことが認められる。
三 してみると、本件起訴状の謄本は、公訴提起があった日から二か月以内に被告人に対し送達されなかったことになるから、公訴の提起はさかのぼってその効力を失ったものとなり、それゆえ、刑訴法二七一条二項、三三九条一項一号により、本件公訴を棄却する。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 澤田経夫)